ウィーン工科大学フォトニクス研究所の研究グループは新しい周波数コム(frequency comb)技術の実現のために、ファインテックのフリップチップおよびダイボンディング装置を活用しました
ウィーン工科大学のフォトニクス研究所は、超短波高強度レーザーパルスやテラヘルツパルスの生成、ナノフォトニクスデバイスとその応用の実現に関する基礎研究分野のリーダーです。
注目の研究の一つは量子カスケード レーザー (QCL) です。 これらは、赤外線およびテラヘルツスペクトルレンジにおけるコンパクトかつ効率的な放射源です。 これらのレーザーは幅広い発光スペクトルを持っているため、周波数コム(frequency comb)を直接生成することが可能で、これは高分解能分光法と計測学用途に最適です。
オンチップテラヘルツ周波数コムに関する研究の一環として、リング共振器型のテラヘルツ量子カスケードレーザーが確立されたシリコンフォトニクスと初めて組み合わせられ、数多くの新しい応用分野での使用に向けた基礎が構築される見込みです。
この際、研究者たちは finetech製のテーブルトップダイボンダーを活用しました。
テラヘルツ放射源としての量子カスケードレーザー(QCL)
テラヘルツ波には、分光以外にも多くの応用の可能性があり、例えばセンサー技術、画像処理、通信などがあります。ガス・センサーによる空気モニタリング、空港でのボディ・スキャナー、高速6Gデータ通信などは、そのほんの一例にすぎなません。
一方、効率的でコンパクトなテラヘルツ光源の開発は、長年の課題でもありました。フェムト秒レーザーを使うなど、従来のテラヘルツ放射の発生方法では、出力や帯域幅、効率の点で限界がありました。
近年、研究者たちは、量子カスケード・レーザー(QCL)を用いることにより、中赤外およびテラヘルツ(THz)領域で初めて、信頼性の高い光周波数コム光源(optical frequency comb sources)を実現することができるようになりました。
テラヘルツQCLは、量子井戸(quantum wells)のサブバンド間遷移を利用したIII-V族半導体ナノ構造をベースとするレーザーで、1~5テラヘルツの波長可変発光を可能にします。オンチップ光源として、高出力、スペクトル制御、コンパクト設計を同時に実現することにより、テラヘルツQCLはポータブルかつ高精度な分光アプリケーションにおける理想的な候補となっています。
III-V量子カスケードレーザーとシリコンフォトニクスの出会い
現在、ウィーン工科大学フォトニクス研究所では、テラヘルツQCLの性能、効率、応用をさらに向上させるため、新しい材料、形状、他のプラットフォームとの統合などの研究を行っています。
リング共振器は特に有望であり、リング型共振器における光の伝搬の基礎となる物理現象は、レーザージオメトリにおける高い光の閉じ込め効果をもたらします。その結果、光とレーザー材料の相互作用が増大し、周波数コムが効率的に形成されます。さらに、リング共振器は他の形状と比較して放射損失が低いため、レーザーのしきい値電流や駆動電流が小さくなり、連続波の高出力動作に重要な」デバイスの熱放散を抑えることができます。
この研究において、リング型THz QCLの利点が初めてシリコンフォトニクスと組み合わせられることになりました。これにより、プラズモニック導波路や低損失シリコン導波路が利用できるようになり、光源-導波路-検出器システムや高速変調器を用いた設計など、任意のTHz回路構成が可能になります。
また、同一チップ上に導波路、検出器、変調器が集積された、室温で動作可能な高効率高出力放射源は、ガス検知などのようなラボ・オン・ア・チップ・システム(Lab-on-a-chip system)に向けて無数の可能性を提供するでしょう。
高精度フリップチップ・ボンダーとの出会い
理想的なuninterruptible ring resonators(無停電リング共振器)を製作するにあたり、ウィーン工科大学の研究者たちは、Siチップと電気的接続のためのボンディングパッドを持たない極めて薄いリング導波路(幅15μm、直径2mm)を使用しました。
リングの中央には、活性レーザー媒質で構成される中央カラムが追加されており、これは安定化および放熱の役割を果たし、リングとカラム間の距離は150μmでした。
デバイスのサイズが小さいため、電気的接続を得るために直接ワイヤーボンディングすることは不可能でした。また、Siチップへのリングの正確なアライメントが要求されるため、フォトニクス研究所で使用していたwafer-to-waferボンダでは、この対象物を安定してハンドリングすることができませんでした。
そこで研究者は、この課題に対応できるフリップチップ・ボンダーを探し求め、広範な調査の後、担当者はファインテックを知り、ウェブサイトを通じてコンタクトを取りました。ファインテックの製品およびアプリケーションの専門家とやり取りをする中で、卓上型ダイボンダーFINEPLACER® lambdaが、アプリケーションの要求プロファイルに完璧に適合する高精度を持つことがすぐに明らかとなりました。
この装置により、研究者たちは、フリップチッププロセスで初めてIII-V THz QCLリングをSiチップのTi/Auパッド(10nm/1.5μm)に確実に接合することができました。電気的導通には、Ti/Auパッドから伸びたブリッジとリング基板の反対面が使用されました。
FINEPLACER® lambdaを使用したエピ・ダウン・アセンブリー技術により、リング導波路の光封止性が向上しました。さらなる利点として、ヒートシンクへの追加接続により熱マネジメント性も改善されました。これらの結果、レーザーのしきい値電流密度の低減と、フリーラン周波数コム形成の重要な前提条件である連続波動作中のアクティブエリアの低発熱が実現されました。
研究の目標は見事に達成された
本研究でシリコン上に集積したIII-V THz QCLは、3.8THz帯の光を発し、しきい値電流密度が著しく減少しました。また、連続波動作では70GHzのスペクトル帯域幅で周波数コムの形成が観察され、周波数コム動作は8.55GHzの狭いビート信号を示し、S/N比は最大40dBでした。
この研究により、シリコン集積テラヘルツデバイスの高い実用可能性が確認されると共に、テラヘルツ研究開発における効率的かつコンパクトな光源の重要性が明確になりました。
THz量子カスケードリング・レーザー周波数コムは、コンパクトなサイズとシリコン基板との一体化により、大気センシング、材料分析、医療診断などの用途における、ポータブル機器やフィールド利用機器に応用可能な有力な選択肢の一つとなっています。
FINEPLACER® lambdaを用いた研究で実現されたダイボンディング技術は、数え切れないほどの統合型オンチップ・アプリケーションを可能にします。この技術に基づくモジュール設計により、今後、どのような導波路形状でも、異なる材料で作られた光源や検出器と組み合わせ、コンパクトなラボオンチップに統合することが可能となりました。
将来的には、集積密度が大幅に向上し、セットアップも複雑化、結果として実装精度の要求がさらに高まることが予想されます。TU Wienフォトニクス研究所では、サブミクロンダイボンダーであるFINEPLACER® lambdaにより、すでにそのための準備をを整えています。
FINEPLACER® lambdaのシンプルで直感的な操作性や、使用開始までの所要時間の短さ、精度、汎用性は、瞬く間に研究所内に広まり、他の研究グループも、独自のフォトニクス研究プロジェクトでファインテックのシステムを導入しています。
And word of the FINEPLACER® lambda’s simple and intuitive operation, rapid readiness for use, accuracy and versatility quickly spread throughout the institute. Other research groups have long been using Finetech’s system for their own photonics research projects.